2012年12月10日月曜日

草原再訪 (第1回)

         ・・・馬場古戸暢

 夜汽車のいくつもの窓が過ぎる  啓司
線路近くに住む人間の日常を、静かに描いた。旅人が過ぎ去る毎日を、こうして見つめて暮らして行くのだろう。

 トイレのにほいのないホテルのトイレ  多喜夫
ホテルのトイレはきちんと清浄されているため、トイレ臭があまりしない。高齢者であれば、なおさら驚いたことだろう。「にほい」という書き方にも味がある。

 小さな靴をはかせて犬を見に行く  恵子
お子さんかお孫さんとのひとこまだろう。何気ない日常だが、詠み手の幸せが伝わってくる。

 下界は朝焼けの農道が光っている  水蛾
前書に「機上にて」とあるが、これがなければ山頂からの景とも読める。朝陽に田畑が輝いているさまは、なかなかに神々しい。

 悪寒おして客の来る駅に居る  操子
客がやって来る日に、よりによって体調を崩してしまったのだろう。駅で待っているだけでもきつかったろうと思う。

 柘榴の木に柘榴なく冬に入る  傀子
冬に入るにふさわしい、さびしい景である。また来年に実ることだろう。

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