2013年3月6日水曜日

花摘む記(第3回)

         ・・・矢野錆助

 立ち枯れのすすきの向こうの町明り  敬雄
冬の夕暮れ、灰色と茶色の風景の向こうに瞬き始めた町の灯。冬の寒さ、寂しさの中に一匙の温もりを感じる一句。

 雪になって明りのつくガラス窓  敬雄
コチラも先の句同様、冬の景の中に温もりを感じる句。しかし、コチラの句の方がより温かさを感じる優しい句。

 <マレーシア・ランカウイ島>
 南国の朝の雨はにぎやか  由紀子
 壁の高いところに南国のヤモリ  由紀子
両句共に異国で生まれた句ならではの国内では生まれない感じのする句。極彩色豊かな東南アジアの熱気と景が脳裏に浮かび上がる。

 鴎の動きに合わせて水の輪できる  啓司
鴎の姿から、視線は水面に広がる数多の波紋に移りゆく。静謐なる時刻の流れる句。

 雨を降らした雲が逆さまにうつる  啓司
地に視線を向けて空を描く。その視点の面白さ。地に立ち生きる人間の詩。

 水面を軽くへこませ枯葉の浮く  啓司
水面に枯れ葉の落ちた音までもが聞こえてきそうな視線のクローズアップ。ミクロな視点の極北にある様な一句。

 出棺のあと夜のエレベーターに一人のる  恵子
近しき人をうしなった喪失感。棺と一人しか乗っていない昇降機の箱形が脳内でシンクロして闇に吸いこまれていく。

 灯り消えた路地を野良猫と曲がる  幸市
オールウェイズ三丁目の夕日。昭和の香りのある一句。野良は猫も犬もどこか人間くさい。

 雨の音を枯葉の音で聴く  ゆ
雨の音っていうのは、結局、雨粒が何かを打つ音。枯れ葉をパラパラと打つ音で間接的に雨を描く。作者は雨を見てはいない。しかし我々読者の脳裏には降り出した雨が鮮明に浮かぶ。

 早春の海かがやいて漁船二隻  暁子
私は朝焼けの海を思い浮かべた。輝く水面に二隻の舟のシルエット。赤と金と黒の三色で描かれた景。

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