2013年8月21日水曜日

随句の基調(第6回)

         ・・・北田傀子

聴覚

 既存の作品の大部分が視覚作品だが、聴覚の多い作家は異色に見えるだけ有利であろう。芭蕉が「古池や…」で開眼したというのも聴覚で、「静かさや岩にしみ入る蝉の声」など聴覚作品が目につく。

  久しぶりの雨の雨だれの音

放哉の聴覚である。他にも、

  畳を歩く雀の足音を知っている
  足音一つ来る小供の足音
  めしたべにおりるわが足音
  鐘ついて去る鐘の余韻の中
  咳をしても一人
  夜中の襖遠くしめられたる
  門をしめる大きな音さしてお寺が寝る
  傘にばりばり雨音さして逢ひに来た
  枯れ枝ほきほき折るによし

音のない句も含めると、

  鳥がだまってどんで行った
  線香が折れる音も立てない

などがある。かなり多い方であろう。

  烏が・だまって・とんで行った

ア音・ア音・オ音、4音・4音・6音、「烏・黙・去」の韻である。



  線香が・折れる・音も立てない

 エ音・オ音・オ音、5音・3音・7音、「線香・折・無」の韻である。こうして見ていくと、放哉句は「裏・無・黙・折」に傾斜があることがわかる。また意韻には無頓着なように見える。

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